「(室町時代末期には書簡で使われており、)江戸前期頃までは、武家の書簡で高い敬意を表していたが、これが次第に口頭語の世界に入っていき、一般の人々も用いるようになった。話し言葉としての『貴様』の待遇価値は、少しずつ下がり、江戸語では明和頃(1764~72)は軽い敬意を表すことが多かったが、文化文政頃(1801~1830)には対等の者に使うことが普通になり、(天保頃1830~44には)次第に罵りことばの世界へと移っていく。」どうやら明治以前に、既に「罵りことば」だったようです。
あとは「お前(おめえ)」や「手前(てめえ)」が同種のものです。
やはり「日本語文法大辞典」によると、「おめえ」は江戸期に既に目下の者に対する対称として使っていたようです。「てめえ」については、時代的な記述は見られませんでしたが、「手前」は漱石の『吾輩は猫である』の中では、対等以下の相手への対称として用いられていたようです。
また「主(ぬし)」も、同辞典によると、元は軽い敬称だったようですが、室町期にはもう目下に対して用いられるようになり、その分を補うように「お主」と尊敬の接頭語を「お」付けたそうです。「ぬし」はその後、江戸期には遊女や庶民の女が客や恋人を呼ぶ対称になりました。これは時代劇などでおなじみです。