普通体・丁寧体
日本語の文体は、大きく普通体(常体)および丁寧体(敬体)の2種類に分かれる。日本語話者は日常生活で両文体を適宜使い分ける。日本語学習者は、初めに丁寧体を、次に普通体を順次学習することが一般的である。普通体は相手を意識しないかのような文体であるため独語体と称し、丁寧体は相手を意識する文体であるため対話体と称することもある。
普通体と丁寧体の違いは次のように現れる。
普通体 丁寧体
もうすぐ春だ(春である)。 もうすぐ春です。 (名詞文)
ここは静かだ(静かである)。 ここは静かです。 (形容動詞文)
野山の花が美しい。 (野山の花が美しいです。) (形容詞文)
鳥が空を飛ぶ。 鳥が空を飛びます。 (動詞文)
普通体では、文末に名詞・形容動詞・副詞などが来る場合には、「だ」または「である」をつけた形で結ぶ。前者を特に「だ体」、後者を特に「である体」と呼ぶこともある。
丁寧体では、文末に名詞・形容動詞・副詞などが来る場合には、助動詞「です」をつけた形で結ぶ。また、形容詞が来る場合にも「です」をつけることができるが、そのような文型は避けられる傾向がある(「花が美しいです」を避けて「花が美しく咲いています」と動詞で結ぶなど)。
一方、動詞が来る場合には「ます」をつけた形で結ぶ。ここから、丁寧体を「ですます体」と呼ぶこともある。丁寧の度合いをより強め、「です」の代わりに「でございます」を用いた文体を、特に「でございます体」と呼ぶこともある。丁寧体は、敬語の面から言えば丁寧語を用いた文体ということになる。
文体の位相差
談話の文体(話体)は、話し手の性別・年齢・職業など、位相の違いによって左右される部分が大きい。「私は食事をしてきました」という丁寧体は、話し手の属性によって、たとえば、次のような変容がある。• ぼく、ごはん食べてきたよ。(男性のくだけた文体)
• おれ、めし食ってきたぜ。(男性のやや乱暴な文体)
• あたし、ごはん食べてきたの。(女性のくだけた文体)
• わたくし、食事をしてまいりました。(成人の改まった文体)
このように異なる言葉遣いのそれぞれを位相語と言い、それぞれの差を位相差という。
物語の書き手などが、仮想的(バーチャル)な位相を意図的に作り出す場合もある。このような言葉遣いを「役割語」と称することがある[87]。たとえば、以下の「博士ふう」「お嬢様ふう」「田舎者ふう」は、必ずしも、実際の科学者や令嬢、地方出身者などが用いている文体ではないが、仮想的にそれらしい感じを与える文体である。• わしは、食事をしてきたのじゃ。(博士ふう)
• あたくし、お食事をいただいてまいりましてよ。(お嬢様ふう)
• おら、めし食ってきただよ。(田舎者ふう)
このような役割語は、小説・漫画・アニメ・テレビドラマなどに広く観察される。近代の文献にも、仮想的な文体と考えられる例が観察される(仮名垣魯文『西洋道中膝栗毛』に現れる外国人らしい言葉遣いなど)。