学校法人 京都情報学園
理事長・教授 長谷川 亘Wataru Hasegawa
早稲田大学文学士
(米国)コロンビア大学教育大学院修了Master of Arts,Master of Education
一般社団法人全国地域情報産業団体連合会(ANIA)会長
一般社団法人京都府情報産業協会会長
タイ王国文部次官賞(2回) ケニア共和国文部大臣賞
天津科技大学客員教授
韓国国土海洋部傘下公企業 済州国際自由都市開発センター 政策諮問委員
担当科目「リーダーシップセオリー」
京都情報大学院大学(KCGI)は,日本最初のIT専門職大学院です。その母体は,日本最初の私立コンピュータ教育機関である,専修学校京都コンピュータ学院(KCG)です。KCGは,創立者長谷川繁雄と長谷川靖子が,未来を見据えた独自の哲学をもって開設した私塾を起源とし,1963年の創立以来,50年以上の長きに亘ってコンピュータ教育を行ってきましたが,その間,高等学校卒業生のみならず多くの四年制大学卒業者が入学し卒業していきました。当時,我が国には,研究を主な目的とする大学院しかありませんでしたから,そうした大卒後に入学された方々の多くは,実務に直結した高等教育機関を探した結果として,KCGを選択していました。KCGは専修学校制度下にありながらも,社会的には,大学学部卒業者のための教育機関としての役割も持ち,いわば一種の職業・実務の大学院としての機能を果たしてきた側面もあります。
その前提,経緯のもとに,KCGは1998年以降,米国ロチェスター工科大学大学院(IT専攻,コンピュータ・サイエンス専攻,その他)との共同プログラムを開設し,実学志向のプロフェッショナルスクールの大学院カリキュラムを実施しています。これは,日本の専修学校とアメリカの大学院とのプログラム提携としては我が国最初のものでもあり,画期的なことでした。
このような実績のある京都コンピュータ学院の関係者が中心となり,専門職大学院という新制度下において,ITの専門職大学院設置に乗り出すことは,ある意味必然であったとも言えます。多数の財界関係者,米国ロチェスター工科大学,コロンビア大学教育大学院の教授陣や研究者など教育関係者の多くの賛同と協力を得て,本学京都情報大学院大学は,新制度施行初年度である2004年4月に,日本国内第一号のIT専門職大学院として開学したのです。
開学にあたって本学は,情報技術教育を基盤として,国際的なビジネス教育を加味し,ACM(Association for Computing Machinery:最古で最大のコンピュータ関連の国際的学会)のIS(Information System:情報システム)修士課程カリキュラム修正版を基にしながら,ウェブビジネス(eビジネス)に特化した技術者,特にCIOを育成するプログラムを構築し,「社会の ニーズに応え,時代を担い,次代をリードする高度な実践能力と創造性を持った応用情報技術専門家を育成する」ことを建学の理念として掲げました。IT社会の高度かつ多様な人材ニーズに応え,従来以上の高度な技術,幅広い知識と国際性を有した高度なITプロフェッショナルズを供給することを通じ,日本の高度情報化社会の実現と経済再生に貢献すること,そして情報およびその関連技術の発展に即応し,理工学・経営学等の関連する学問分野の理論および応用技術等を教授し,以って高度専門職業人を養成することを使命・目的として標榜しております。
それまで我が国には,ウェブビジネス(eビジネス)のための技術は,それを主専攻とする学部または大学院レベルの専攻が皆無に近い状態であり,伝統的な経営学や経営工学といった専攻学科や,情報系の関連する専攻の一部として取り上げられているに過ぎませんでした。すなわち,体系的かつ総合的な専攻,あるいは専門分野の一部として,研究・教育されていたに過ぎないのが実情だったのです。
本学の特徴は,日本の多くの大学の工学部等に見られるような,いわば「タテ割りの一分野」としての情報工学の大学院でもなく,情報数理系の大学院でもなく,それらと共通項は多々あるにせよ,ジャンルを異にする「広義でのIT」系専門職大学院として,世界標準の「プロフェッショナルスクール」を目指し,リーダーシップ能力の育成にも主眼を置いている点にあります。教育学的見地に基づいたカリキュラム設計や担当教員の構成はもちろんのこと,ラーナーオリエンテッド(Learner Oriented:学習者主体)のインストラクショナルデザイン(Instructional Design:教育設計),開放的水平分業システムの教育体制,そしてラーニングアウトカム(Learning Outcome:学習成果)の定期的計測など,それまでの日本の大学にはほとんど見受けられなかった要素や施策も多く取り入れながら,教育体制の充実を図っています。
さらに,アジアをはじめ世界各国においてその実力を発揮することのできる,ITスキルとマネジメントスキルを併せ持ったグローバルに通用するビジネスマンを養成し,国際的リーダーを育成することに力を入れています。本学では,とりわけ各国からの留学生も積極的に受け入れており,開学当初から「アジアNo.1のITプロフェッショナルスクール」を目指しています。
また,昨今ではアニメをはじめとする日本のコンテンツが世界において高く評価されていることを背景に,コンテンツ産業の重要度が増加しています。そこで本学では,コンテンツ産業とITとの関わりにおいてさらなるインターネットの可能性を探り,実際にコンテンツを開発したり,新たなコンテンツビジネスのモデルを探究したりすることにも着目し,関連する科目を創設しています。
ITは,もはや私たちの日常生活や産業活動に無くてはならないものになっており,多岐にわたる関連分野には,まさに膨大な社会的ニーズが横たわっています。昨今では,農業や漁業などの第一次産業では,IT化による活性化が試されようとしています。また,海洋,医療,それに舞台芸術といったジャンルは,もはやIT抜きでは成り立たないといった状況です。そのような中,実践的なスキルとコミュニケーション力を備え,広い視野を持つ本学の修了者は,さまざまなフィールドで活躍しています。
本学は,2012年4月より札幌サテライト,2012年10月より東京サテライトを開設しました。サテライトキャンパスは,eラーニングシステムによって京都本校と繋げられ,現地にいながらにして最先端のIT専門教育を受けることができます。リアルタイムで講義を受講し,カメラを通じて教授に直接質問ができるのはもちろん,録画され,サーバに蓄積された講義を自宅で視聴することも可能です。いわば時間と場所の制約を超えて,いつでもどこでも高度な専門教育を受けることが可能となっています。さらに本学は,アメリカ,中国や韓国をはじめとする海外の高等教育機関との充実したネットワークも有しており,提携・交流を独自に積み重ねてきましたので,それらを活かしながら海外との交流もさらに活発化し,積極的に教育事業を展開していきます。
本学は,時代のめまぐるしい変化の中にあっても,建学の理念と使命・目的に基づき,着実に歩みを進め,高度なITプロフェッショナルズの養成に邁進していきます。意欲あるみなさんの入学をお待ちしております。
時代のターニングポイントにあって
京都情報大学院大学学長 応用情報技術研究科長
茨木 俊秀Toshihide Ibaraki 京都大学工学士
同大学院修士課程修了(電子工学専攻)工学博士
京都大学名誉教授 元京都大学大学院情報学研究科長
元豊橋技術科学大学教授 元関西学院大学教授
イリノイ大学等客員研究員および客員教授 ACM電子情報通信学会
情報処理学会 日本応用数理学会 以上4学会フェロー 日本オペレーションズ・リサーチ学会
スケジューリング学会 以上2学会名誉会員
担当科目
「
システム理論特論」
18世紀後半から19世紀にかけて起こった産業革命は,蒸気機関という新しい動力の誕生をきっかけとするものでした。生産力の増大は,その後,電気と石油の利用によってさらに加速され,20世紀になると,人類が必要とする量をはるかに超える生産能力を持つに至りました。その結果,いわゆる「量から質への転換」が起こり,それまでの大量生産は時代遅れとなり,多品種少量生産の時代へ移行しました。その荒波の中で,世界の産業構造は大きく変化し,新たな社会秩序が生まれてきました。20世紀後半から21世紀に入ると,ICT(情報通信技術)が再び大きな変革を生み出しました。それは情報革命と呼ばれています。その源泉となったコンピュータは,誕生以来まだ70年程ですが,爆発的な進歩の結果,演算速度と記憶容量の両方において信じられないほどの力を持つに至りました。しかも産業革命に比べると,進化の速度はずっと速いのです。人間の脳は約 1011個 のニューロンから成っていると言われていますが,コンピュータを形作る素子の数はすでにそれを凌駕しつつあって,ハードウェアとしては人間の脳に比肩できるまでになってきました。情報革命のもう一つの担い手である通信技術も大きく進歩しています。電流や電波による情報の伝達に加え,光による通信も実用化され,いわゆるデジタル化時代を迎えました。その最大の成果であるインターネットを利用すれば,世界のあらゆるところへ,文字はもちろん,写真や動画データでさえ瞬時に送ることができます。これらICTの進歩は,私たちの生活に大きな変化をもたらしています。大気の変化を記述する偏微分方程式を実際の気象の変化より速く解けるようになったことが,数値天気予報の決め手でした。音声の分析と認識を人の発話速度を超える高速でできるようになり,人間とコンピュータがリアルタイムで対話できるようになりました。記憶容量の壁もほぼなくなり,たとえば,世界中のすべての書籍のデジタルデータ,人が一生を通して眼や耳から取り入れるデータのすべて,人々の間で交わされるあらゆる通信の内容,などを記憶して保存することが可能になりました。コンピュータ自体についても,サイズがどんどん小さくかつ速くなった結果,携帯電話やスマートフォンは人々のポケットに居場所を見つけ,さらにウェアラブルコンピュータはメガネや腕時計,また衣料の一部に装着されています。ロボットはこれら先端技術を総合することによって初めて可能となりましたが,人間の身体性の一部を代替するだけでなく,高度な人工知能を組み込むことによって,新しい生命体のような役割を果たしつつあります。人の動作を助ける介護ロボット,訪問者の質問に答え求められた場所へ案内するロボット,家庭にあって人と対話しペットの役割を果たすロボットなど,興味あるロボットが次々と登場しています。
より大きく,ビジネスや政治,国家間の関係なども例外ではありません。インターネットに代表される通信のインフラストラクチャは,世界中をネットワークによって結び付け,グローバル化しました。その結果,新しい多国籍ビジネスが次々と生まれ,さらには国家や社会の在り方までもが影響を受け,急激に変化しています。
ICTは我々の生活を大変便利にしましたが,その一方で負の脅威にもなり得ることに注意しなければなりません。日ごろ悩まされるスパムメール,外から勝手にコンピュータに侵入して来るコンピュータウイルス,それらを利用したコンピュータ犯罪,さらにはサイバーテロなど,小規模なものから大規模なものまで,少しでも対応を間違うと大きな災害を引き起こす可能性があります。これらとどう対峙していくかが問われています。
ICTによる情報革命は,この後,どのように進行するでしょうか。人工知能は人間が作ったものですが,それは,たとえばチェスというゲームではすでに人間の世界チャンピオンを破っていますし,将棋においてもプロ棋士に勝ち越すというレベルに達しています。人工知能がこのように高いレベルに達すると,自ら学習し進歩するとともに,近い将来,より高度な人工知能を自分で作り出すようになるだろうと考えられています。この自己増殖のサイクルの中で,コンピュータの知能が人間を超えてしまうという時期が遠からずやってくるだろうと予想されます。未来学者たちはそれを超知能と呼んでいます。果たして人間と超知能の平和的な共存は可能でしょうか。
以上,ICTがもつ様々な側面について述べましたが,これらのせめぎ合いの中で,現在はまさに転換の真っただ中,大げさにいえば,人類の将来にとってのターニングポイントに来ていると言えるでしょう。
このような時代に対応するため,我々は,日本最初のICT系の専門職大学院である京都情報大学院大学を設立いたしました。それが母体とする京都コンピュータ学院は1963年,コンピュータの揺籃期に設立されました。学院はわが国最初のコンピュータ教育機関としてコンピュータの発展とともに成長し,前途有為の人材を多数送り出してきました。この伝統と実績を継承して,京都情報大学院大学は2003年11月に開学宣言を行い,2004年4月に最初の学生たちを迎えました。
建学の理念には「社会のニーズに応え,時代を担い,次代をリードする高度な実践能力と創造性を持った応用情報技術専門家を育成する」と書かれています。これを達成するため,応用情報技術研究科ウェブビジネス技術専攻を置き,科目群を情報技術系のコア科目,ビジネス系のコア科目,および応用系科目に分けています。とくに応用分野の今後の重要性を踏まえ,医療情報,農業情報,海洋情報,などの科目を充実しています。また,アニメ・ゲームなどコンテンツ関係,舞台芸術や音楽に関するディジタル技術の科目も大きな特徴となっています。開学後まだ日は浅いですが,札幌と東京にサテライト校を設けました。また学生定員も大幅に増加しました。時代のターニングポイントにあって,しっかりと歩き始めたといえるでしょう。
本学は,ICTの更なる研鑽を積みながら,それが社会に与える影響を十分理解し,正しい方向へ導いていけるような人材を育てたいと願っています。志を有する方であれば,年齢,経歴,国籍,さらに文系理系を問わず,門戸を開いています。大学を卒業されたばかりの方はもちろん,すでに実社会で活躍しつつキャリアアップを目指している社会人,海外にありながら日本での勉学に興味を持つ留学生,私たちはこのような方々の入学を心から歓迎いたします。
日本最初のIT専門職大学院−IT分野の高度専門職業人を育成するために
研究大学院と専門職大学院
大学院における人材養成は,①研究者の養成と,②高度専門職業人の養成に大別することができます。わが国においては,これまで,研究者養成のための「研究大学院」が主流であり,高度専門職業人の養成に特化した教育を行う大学院は皆無に等しい状況でした。
しかし,近年の急速な技術革新,社会経済の急激な変化(多様化,複雑化,高度化,グローバル化)等を受け,高度で専門的な職業能力を有する人材の輩出を望む声が,産業界を中心に強くなっています。また一方で,社会人として活躍をしている人々が,自らのスキルアップ・キャリアチェンジを望む声も強くなっています。
このような社会的要請に対して,従来の研究大学院では十分に応えられない面が多々あります。すなわち:
研究大学院では,研究が高度になればなるほど,研究領域の専門分化・特殊化が顕著になり,一般実務を遂行する上で必須となる広範なスキル・知識をバランスよく修得できるカリキュラム構成がなされていません。
研究大学院では,実務経験のない研究者を中心とした教員構成をとっているため,実社会における実務との乖離が甚だしく,実務の遂行に必要な実践的教育がなされていません。
研究大学院では,関連した特定の学部の出身者に入学者が限られてしまう傾向にあり,キャリアチェンジの機会を創出できません。